二葉百合子ベストセレクション

二葉百合子 二葉百合子ベストセレクション歌詞
1.一本刀土俵入り

作詞:藤間哲郎
作曲:桜田誠一

山と積まれたお宝さえも
人の情けにゃ 代えられぬ
なんで忘れよ 花かんざしに
こもる心を
受けて茂兵衛の こらえ泣き

(セリフ)
「取的さん、お前本当に精を出し
て立派な関取りにおなり、いっしょう懸命お
やり、そうして故郷のおッ母さんのお墓の
前で横綱の土俵入りを、きっとやるんだよ」

厚い化粧に 涙をかくす
茶屋の女も 意地はある
まして男よ 取的さんよ
見せてお呉れな
きっとあしたの 晴れ姿

(セリフ)
「おおお蔦さん、棒ッ切れを振
りまわしてする茂兵衛のこれが十年前
に、櫛・笄・巾着ぐるみ、意見をもらった
姐さんに、せめて見てもらう駒形の、し
がねえ姿の土俵入りでござんす」

逢えて嬉しい 瞼の人は
つらい連れ持つ 女房雁
飛んで行かんせ どの空なりと
これがやくざの
せめて白刃の 仁義沙汰


2.ひめゆりの塔

作詞:横井弘
作曲:白石十四男

(セリフ)
「沖縄決戦最後の日、お前たちが
ここ摩文仁の壕の中で、若い命を御国のた
めに捧げてから、すでに三十と三年。母さ
んもこの通りすっかり年をとってしまって。」

あなたに今日も 会いに来る
あゝひめゆりの 白い塔
乙女の青春(はる)を 祖国(くに)のため
笑顔で捨てた 健気(けなげ)さを
偲べば母は ただ泣ける

(セリフ)
「母さんは年をとっても、母さん
の心の中に生きてるお前は、いつまでたっ
ても女学生の制服姿のままなのです。」

緑の髪を 櫛けずり
あゝ水際で 散った娘(こ)よ
この手でせめて 別れぎわ
晴着を着せて みたかった
未練がいまも 胸を刺す

(セリフ)
「いまでも、あの頃のお前と同じ年
頃の娘さんを見かけると、つい思い出して。」

あなたの好きな 大好きな
あゝ沖縄の 青い空
形見の櫛を 抱き締めて
果てなく続く やすらぎを
ひたすら母は 祈ります


3.靖国の母

作詞:横井弘
作曲:遠藤実

夢を見ました 倅(せがれ)の夢を
肩をたたいて くれました
骨になっても
母を忘れぬその優しさに その優しさに
月がふるえる 九段坂

(セリフ)
あの日、万歳の声に応えて、
お前は挙手の礼をしたっけ。
日の丸の旗を、たすきにかけたお前は、
とても凛々しかった。
「お国の為に、立派に死ぬんだよ」
私は殊更きびしく言ったけど、
心の中では
「どうか無事で帰ってくるように」って、
泣きながら祈っていたんだよ。

生きてきました 嵐に耐えて
めぐり逢う日を 待ちました
愚痴は言うまい
ここの社(やしろ)へ 詣(もう)でる人は 詣でる人は
みんなせつない 人ばかり

(セリフ)
それでも、まだ南の島に
日本兵がいるって噂をきくと、
もしやお前じゃないか、
もしや生きているのじゃないかと、
居ても立ってもいられなくなるのさ。
こんな母さんを、許してくれるね。

花が咲きます 桜の花が
まるで倅(せがれ)の 姿です
帰る望みも
今じゃはかない陰膳(かけぜん)だけど 陰膳だけど
供え続ける いつまでも


4.靖国の母

作詞:横井弘
作曲:遠藤実

夢を見ました 倅(せがれ)の夢を
肩をたたいて くれました
骨になっても
母を忘れぬその優しさに その優しさに
月がふるえる 九段坂

(セリフ)
あの日、万歳の声に応えて、
お前は挙手の礼をしたっけ。
日の丸の旗を、たすきにかけたお前は、
とても凛々しかった。
「お国の為に、立派に死ぬんだよ」
私は殊更きびしく言ったけど、
心の中では
「どうか無事で帰ってくるように」って、
泣きながら祈っていたんだよ。

生きてきました 嵐に耐えて
めぐり逢う日を 待ちました
愚痴は言うまい
ここの社(やしろ)へ 詣(もう)でる人は 詣でる人は
みんなせつない 人ばかり

(セリフ)
それでも、まだ南の島に
日本兵がいるって噂をきくと、
もしやお前じゃないか、
もしや生きているのじゃないかと、
居ても立ってもいられなくなるのさ。
こんな母さんを、許してくれるね。

花が咲きます 桜の花が
まるで倅(せがれ)の 姿です
帰る望みも
今じゃはかない陰膳(かけぜん)だけど 陰膳だけど
供え続ける いつまでも


5.残桜抄(ざんかしょう)

作詞:荒木とよひさ
作曲:弦哲也

風誘う花よりも なを我はまた
春の名残をいかにとやせん
せめてひと太刀
いまひと太刀の
胸に無念の 早や桜
残す家臣の 忠義まで
散らす 我が身の愚かさよ

(セリフ)あ…いま少しの辛抱があれば…
そち達の苦労に報いることも出来たのに
許してくれい…許してくれい…
武士としての意地だった
…せめて一言内蔵助(くらのすけ)に 内蔵助に
いま一度 赤穂の桜が見たかった…と想いは馳せる

赤穂の城の幾春咲けし 庭桜(にわざくら)
心静かに 腹切れど
誰ぞ 放つか 鷹の羽を
散るも桜か 残すも桜
命ひとひら 風に舞う
武士の作法の 白袴(しらばかま)
その名 汚がせぬ 一文字


6.お雪物語

作詞:木下龍太郎
作曲:四方章人

鬼と世間は 指さすけれど
やはり人の子 ひとりでは
命捨て身で 生きてく方(かた)の
熱い情けに
お雪は解(と)ける 京の宿

(セリフ)
「尊皇とか佐幕とか 女にはど
うでも良いのでございます。私にとって
大事なのはこの世の中に土方歳三様た
だおひとり。」

加茂の河原に 時雨(しぐれ)が走る
今日も誰かの なみだ雨
強い方だと 分っていても
もしやもしやと
お雪はまたも 先案じ

(セリフ)
「卑怯者とうしろ指をさされよ
うとも、どうぞどうぞ生きて戻って下さ
いませ。土方様のお命はお雪の命でご
ざいます。」

北の彼方にゃ 届かぬ祈り
いつか跡絶(とだ)えた 風だより
惚れたお方の 供養のために
ひとり生きてく
お雪は強い 京おんな


7.赤穂浪士

作詞:嶋淳平
作曲:山中博

花の大江戸 空飛ぶ雲は
遥か赤穂の 流れ雲
時は元禄 泰平なれど
君に忠節 尽くさんと
四十七士の 四十七士の晴れ姿

(セリフ)
「おそれながら徳川幕府の御
政道(ごせいどう)に物申す
御事(おんこと)の発端(ほったん)は 主君浅野と吉良(きら)殿の
武士(もののふ)同士の遺恨沙汰(いこんざた)
お咎(とが)めならば 両成敗(りょうせいばい)がしかるべき
なれど身は切腹の血しぶきに
染めて断絶赤穂城
遺恨を晴らして 忠節忠義
殿のお側(そば)に 参りまする」

春の名残りを 桜に問うて
散りて儚(はかな)き 運命(さだめ)かよ
松の廊下の 葵(あおい)の風に
あおぐお城も 崩(くず)れゆく
哭(な)くか路頭(ろとう)の 哭(な)くか路頭(ろとう)のはぐれ鳥

殿の無念の 裁きは如何(いか)に
上意理不尽(じょういりふじん) 片手落ち
若き命も 老いたる身でも
赤穂浪士と 名を連(つら)ね
かざす白刃に かざす白刃に鬨(とき)の声


8.あゝ笠戸丸

作詞:横井弘
作曲:遠藤実

(セリフ)
「ああ、あれから何年いいえ、何十
年たったことでしょう。笠戸丸のデッキから
万歳、万歳と声を限りに叫びつづけたのが、
まるで昨日のことのようでございます」

行くも送るも 血を吐く想い
叫び続けた あの日の港
錦かざって
帰る誓いの 真赤なテープ
波に千切れりゃ ああ ふるさとの
旗も泣いてた 笠戸丸

つらい長雨 つれない旱(ひでり)
祈る両手を 突きさす夜風
意地をたよりに
他国ぐらしを 堪(こら)えて来たが
いつも偲ぶは ああ ふるさとの
祭り囃子よ 藁の屋根

(セリフ)
「血の滲むような苦労の毎日で
ございました。桜の季節が来るたび、雪
の便りをきくたびにせめて一度、一度だ
けでいい。この足でふるさとの土を踏んで
みたい……しきりに思うのでございます」

盆にゃ行けるか 正月頃か
噂きくたび 心がうずく
遠くはなれて
積り積った 思いを数を
夢のふるさと ああ ふるさとの
山に向って ぶつけたい


9.母の旅路

作詞:阿久悠
作曲:小林亜星

(セリフ)
「元気のいい子供というものは少
しづゝ親不幸なものでございます。でも
その親不幸を味わわせてもらえない不幸
にくらべたら、何と幸福(しあわせ)なことでしょう」

秋と気づいて肌寒く
空に流れる鰯雲
あの子今ごろ何してる
ぐれて泣いてはいやせぬか
母の匂いを忘れたら
母の匂いを忘れたら
小指しゃぶってみるがいい

一つ傘さす親子づれ
みぞれおそれぬ笑い顔
今日は学校で何したと
きっと話しているのだろう
母のぬくもり忘れたら
母のぬくもり忘れたら
からだ丸めて寝るがいい

理由(わけ)があるから旅の空
理由があるから身をかくし
抱いた昔の手ごたえを
思い出してる夜ふけごろ
母のささやき忘れたら
母のささやき忘れたら
子守唄など歌やいい


10.鳥辺山心中

作詞:横井弘
作曲:吉田矢健治

浮かれ囃子の 祇園の町に
誠ひとすじ 咲いた花
夢もむらさき 春待つ袖に
別れ川風 なぜに泣く

西と東に 袂を分かちゃ
結ぶあてない 恋の帯
酒に意気地の 白刃を抜けば
月の河原に 泣く千鳥

半九郎「ひく三味線は祇園町」
お染「茶屋のやま衆が色酒に」
半九郎「みだれて遊ぶ騒ぎ合い」
お染「あの面白さ見る時は」
「あゝ今更それを言うも、
愚痴でござんす。
さあ、ちっとも早よう」
半九郎「お染」
お染「半さま」

命ふたつを ひとつに寄せりゃ
なんで怖かろ 死出の旅
対(つい)の晴着で 踏み出す道に
鐘が鳴る鳴る 鳥辺山


11.女国定

作詞:山崎正
作曲:山口俊郎

上州小町は 昔のことさ
今じゃ呼び名も 火の車
丁と張りましょ 若し半でたら
見せて上げましょ この肌を

(セリフ)
「手前生国と発しますは 関東にござ
んす 関東関東と申しましても いさ
さか広うござんす
上州は山田郡赤城の山のふきおろし
天王村にござんす
庄屋の家におぎゃぁと発しました手前
こそ女らしさはみじんも無く お見か
け通りの白むく鉄火 一天地六の賽の
目に張った命は利根川の深さに勝さる
不孝者にござんす
親の意見も空吹く風とふき流し 四六
三年半目を売って長脇差(どす)を抱き寝の旅
がらす 名前申し上げます失礼さんに
御座んす
通称火の車お万と発しまして 稼業昨
今駆け出しもんに御座んす」

女だてらに 仁義を切って
結ぶ一夜の かりの宿
ぐれたこの身を くやむじゃないが
夢で泣く夜も たまにゃある

風に吹かれて 旅から旅へ
やくざ渡世の 七曲り
胸に抱いてる 故郷の空を
晴れて見る日は 何時じゃやら


12.渡り鳥でござんす

作詞:室町京之介
作曲:山口俊郎

旅の烏で 三年三月
影もやつれた やくざ髷
ドスを抱き寝の 今宵の夢も
風に流転の 三度笠

(セリフ)
「あれから三年――おふくろさん、
今頃ァ何うして居なさるか、会いてえ、
一目でもいいから会いてえ、
あゝ、見える、生まれ故郷の山川が
――聞える俺を呼んでる
おふくろさんのアノ声が――」

男なりゃこそ 忘れて居たに
思い出させて 又泣かす
アレは宵宮の 太鼓か笛か
知らぬ他国の 祭り唄

翼あろうが なかろがまゝよ
鳥と名前が つくからにゃ
行かざなるまい やくざの果てと
泣いて浮世を 渡り鳥


13.関東仁義

作詞:木下龍太郎
作曲:白石十四男

「ご列席のご一統さん 失礼さんにござ
んす。
私生国と発します 関東にござんす。
関東は江戸 改めまして東京は浅草
花川戸にござんす。
男度胸の二の腕かけて
義理人情の紅い花
彫って入った稼業にござんす。
渡世縁持ちまして天神一家にござんす。
姓は左近寺 名は龍也
通称抜き打ちの龍と発します。
昨今かけ出しの 若輩者にござんす。
向後(きょうこう) 万端よろしゅうおたの申します」

お世辞笑いで 生きてくよりは
義理の二文字 抱いて死ぬ
古い男の 誠の道を
なんで世間は 馬鹿という

惚れた女に 難くせつけて
むける背中に 夜の風
短刀(ドス)を呑んでる この懐(ふところ)に
抱いちゃいけない 堅気花

半ぱ者でも 傷もつ身でも
なんで汚(けが)そう 心まで
割ってみせたい 五尺の身体
どこに男の 嘘がある


14.すみだ川

作詞:佐藤惣之助
作曲:山田栄一

銀杏(いちょう)がえしに 黒襦子(くろじゅす)かけて
泣いて別れた すみだ川
思い出します 観音さまの
秋の日暮の 鐘の声

(セリフ)
「あゝそうでしたわね。あなた
が二十歳(はたち)、わたしが十七。いつも清元の
お稽古から帰って来ると、あなたは竹谷
の渡しで待っていてくだすった。 そして
二人の姿が水にうつるのを眺めながら、
ニッコリ笑っていつも淋しく別れたけど、
はかない恋っていじらしいもんだわねぇ」

娘心の 仲見世歩く
春を待つ夜の 歳(とし)の市
更けりゃ泣けます 今戸の空に
幼馴染(おさななじみ)の お月様

(セリフ)
「あれからわたしは芸者に出た
もんだから、あなたは逢ってくれないし、
いつも観音様へお詣りする度に、廻り
道してなつかしい隅田のほとりを歩きな
がらあの時分を思い出しては、一人で泣
いていたんですよ。でももう泣かないわ。
だって初恋のあなたに逢えたんですも
の。まあ一緒に行って下さる。竹谷の渡
しへ」

都鳥さえ 一羽じゃとばぬ
むかしこいしい 水の面(おも)
逢えば溶(と)けます 涙の胸に
海岸(かし)の柳も 春の雪


15.十三夜

作詞:石松秋二
作曲:長津義司

河岸(かし)の柳の 行きずりに
ふと見合せる 顔と顔
立止り
懐しいやら 嬉しやら
青い月夜の 十三夜

(セリフ)
「あの方とまた逢えた。にっこ
り笑って下さった。それだけを楽しみに、
いつも河岸でお待ちした。なのに、もう
あの方はいらっしゃらない」

夢の昔よ 別れては
面影ばかり 遠い人
話すにも
何から話す 振袖(ふりそで)を
抱いて泣きたい 十三夜

(セリフ)
「ご病気かしら、他の土地へい
らしたのかしら。それとも私が半玉だか
らかしら。でも、もしかしたらと来てみ
たのに。やっぱりお空の月はあの方と最
後にお逢いした夜と同じ月なのに…」

空を千鳥が 飛んでいる
今更(いまさら)泣いて なんとしょう
さようならと
こよない言葉 かけました
青い月夜の 十三夜


16.小判鮫の唄

作詞:高橋掬太郎
作曲:大村能章

かけた情が いつわりならば
なんで濡れよか 男の胸が
かつら下地に ともしび揺れて
いつか浮き名の こぼれ紅

(セリフ)
「おらん様お情けうれしゅうは
存じますけれども、所詮この世で結ば
れぬしがない役者の中村 紅雀(こうじゃく)、どうぞ
お諦めくださいませ…と云うても真(まこと)は
明かされぬ、そうじゃどうせ捨て身のつ
なわたり」

好きといおうか 嫌いといおうか
嘘と誠は 両花道よ
仇な夜風に まただまされて
ほろり落とした 舞い扇

(セリフ)
「おらん様 紅雀めがお言葉に
従わぬのはあなたの父御(てゝご)が私の父の仇
ゆえ、なのにあなたは命までもとおっし
ゃった…これが運命(さだめ)のお芝居ならば辛い
涙の牡丹刷毛」

誰の涙か 二片三片(ふたひらみひら)
まわり舞台に 散る花片よ
恋は一筋 生命(いのち)にかけて
なんの恐かろ 小判鮫


17.あの娘が泣いてる波止場

作詞:高野公男
作曲:船村徹

思い出したんだとさ
逢いたくなったんだとさ
いくらすれても 女はおんな
男心にゃ わかるもんかと
沖の煙を 見ながら
あゝ あの娘(こ)が泣いてる 波止場

(セリフ)
「なによ、マドロスなんて
浮気で邪険で薄情で…
でも…会いたいのよ」

呼んでみたんだとさ
淋しくなったんだとさ
どうせカーゴの マドロスさんは
一夜(いちや)泊まりの 旅の鴎(かもめ)と
遠い汽笛を しょんぼり
あゝ あの娘は聞いてる 波止場

(セリフ)
「もう大丈夫よ。涙が涸れちゃ
ったの。私、泣いたりして馬鹿ね。そう、
悟ったの。そしたらわかったの。
だから待つ気になりました」

涙捨てたんだとさ
待つ気になったんだとさ
海の鳥でも 月夜にゃきっと
飛んで来るだろ 夢ではろばろ
それをたよりに いつまで
あゝ あの娘がたたずむ 波止場

(セリフ)
「あなた、どうぞご無事で
早く帰ってきて!待ってるわ」


18.お夏清十郎

作詞:佐藤惣之助
作曲:大村能章

可愛いお夏を 小舟にのせて
花の清十郎に 漕がせたや
春は夜明けの ソレ こがれ潮

(セリフ)お夏
「初の契りは尾上の桜。薄
紅のぼんぼりが瞬たきはじめた小袖幕
の蔭であった。忘れはせぬ。未来までも
と誓った仲……なのに………清十郎の
姿は見えぬ………どこへいった。逢いた
い。あ………逢いたい………」

向う通るは 清十郎じゃないか
笠がよう似た 菅笠が
何故に恋しい ソレ 顔かくす

(セリフ)お夏
「ああ違う、清十郎ではな
い。何じゃと? 百両の金を奪った科(とが)に
より、清十郎は仕置きを受けたと?嘘
じゃ。清十郎は奪(と)りはせぬ。奪らぬ者が
仕置とは…」

清十郎殺さば お夏も殺せ
生きて思いを さしょよりも
なまじ情けが ソレ 仇となる

(セリフ)お夏
「アハハハ、誰も知らぬのじ
ゃ。清十郎は死にはせぬ。ここにいる。
いつまでも、わしの胸の中にいるのじゃ。
アハハ、アハハハ、アハハハ……………」


19.母の便り

作詞:矢野亮
作曲:真木陽

(セリフ)
「辿々しくは候も、墨をすり、
筆を噛み、恥も外聞も考えず、憶えしい
ろはの仮名書にて、老いし身のただひと
つ、今生にての願いを込め……」

暗い夜業の 灯の蔭に
そなた案じて 筆とり候
秋の祭りの 太鼓の音も
一人わび住む 母なれば
なまじなまじ なまじ白髪の
ますのみに候

(セリフ)
「いつまでもなんで子供と思う
のかと笑われてもその子供をこそ忘れ
られぬが母にて候」

結ぶ夜毎の 夢さえも
遥か都の 空にて候
よるべなき身に さぞやの苦労
離ればなれの 悲しさは
思い思い 思い届かず
もどかしく候

(セリフ)
「雨の朝、月の夜、縁寺の鐘を
聞くたびにどうぞお守り下さいとご先
祖さまにお願いしては泣くばかり。」

老いの繰り言 たどたどと
便り書く手も 凍えて候
飾る錦は 何ほしかろう
親子二人で 水入らず
暮す暮す 暮すのぞみに
すがり居り候


20.アンコ可愛いや

作詞:松村又一
作曲:上原げん

赤く咲いても 椿の花は
ホロリ落ちそで 落ちぬとさ
アンコ可愛いや 紅椿
どこのどなたに どこのどなたに
落ちる気か

(セリフ)
「あゝどうしたのかしらあの人。
三原山がまた火を噴いているのに
あゝ汽笛、船が入った、波浮の港へ。」

島の御神火 燃えたつ夜は
胸に想いを 焦がすとさ
アンコ可愛いや 紅椿
今日も岬で 今日も岬で
誰を待つ

(セリフ)
「あの人来なかった。ひとりぼっ
ちの島の娘はやっぱりこれでいいのかし
ら……。」

沖の瀬(せ)の瀬で 汐鳴る宵は
夢で千鳥も 嘆くとさ
アンコ可愛いや 紅椿
といた黒髪 といた黒髪
胸に抱く


21.母子船頭唄

作詞:佐藤惣之助
作曲:細川潤一

(セリフ)
「母さんほらあんなきれいなお
月さんが」
「まぁほんとうに今夜は特にきれいだわねぇ」
「父さんも戦地でこのお月さん見てるかなぁ」
「そうねぇつい先だっての父さんからの手紙
にはあまり激しい戦闘もなく手柄話の書
きようがないってあったからひょっとして今
頃はおまえのことなどを考えながらこの
お月さんを眺めているかも知れないよ」
「そうだといいねお母さん」

利根のお月さん 空の上
ぼくとかあさん 水の上
漕いで流して 日が暮れる
船頭ぐらしは さびしいな

水に流れる お月さん
遠い戦地の とうさんも
ぼくやかあさん 思い出し
どこで眺めて いるでしょか

(セリフ)
「父さんが無事帰ってくるまで
はお前も母さんもまだまだ頑張らなく
てはねぇ」

もしもお月さん 鏡なら
戦闘帽子で とうさんが
進む笑顔を ひと目でも
見せて下さい お月さま

(セリフ)
「ねぇ母さん二人してお月さん
に父さんの無事を祈ろうよ」

こんな晩には 父さんが
いつもうたった 船唄を
かあさんふたりで 元気よく
漕いで流して うたおうよ

(セリフ)
「父さーん」


22.長崎物語

作詞:梅木三郎
作曲:佐々木俊一

(セリフ)お春
「いいんです。泣かないで…
…異国の血を受けた者が流されるのは、
掟ですもの……。悲しいけど、締めて、
春はジャガタラへ行きますわ。ア、ア…
…ふ、ふ、船が出る……」

赤い花なら 曼珠沙華
オランダ屋敷に 雨が降る
濡れて泣いてる ジャガタラお春
未練な出船の ああ鐘が鳴る
ララ 鐘が鳴る

(セリフ)お春
「お別れね。いいえ御心配
なさらずに。でも………生まれて今日
まで十四年………もう会えないと思う
と辛いけど、春は春は、決して泣きませ
ん………」

映すガラスは 無いけれど
夢の港の 長崎の
ザボン色した 宵の月
南京祭りの 笛の音と
数え切れない 思い出が
父が遺品(かたみ)のこの胸の
金のクルスに生きてます

(セリフ)お春
「神様がきっとお守り下さ
います。父もオランダの空から見守って
くれるでしょう……。それに………死ん
だ母のお精霊(しょろ)様が、いつまでもいつまで
も、一緒にいてくれますわ……。では、
左様なら」

坂の長崎 石だたみ
南京煙火に 日が暮れて
そぞろ恋しい 出島の沖に
母の精霊が ああ流れ行く
ララ 流れ行く

(セリフ)お春
「お別れ申せしより早二月
は夢の間に過ぎ行き候へども、忘れ得ぬ
は懐しき故郷の姿にて候。雨の日も風
の日も、この世に生を享けて十四年、共
に生き」

平戸離れて 幾百里
つづる文さえ つくものを
なぜに帰らぬ ジャガタラお春
サンタクルスの ああ鐘が鳴る
ララ 鐘が鳴る


23.祝い船

作詞:千葉幸雄・補作詞:野村耕三
作曲:中村典正

(セリフ)
「結婚おめでとう 本当におめ
でとうございます」

晴れの門出の はなむけに
唄に踊りに 手拍子を
今日はめでたい 心の船出
辛いこの世の 荒波越えて
ドンと漕ぎ出す 祝い船

「高砂や この浦船に 帆をあげて
月もろともに 入り汐の…」
(セリフ)
「二人 絆の人生航路 旅立ち
を祝い無事を心からお祈りします」

今度港に 着くときは
小舟孫舟 連れて来い
今日はめでたい 二人の船出
愛の積荷と しあわせ乗せて
鶴と亀との 祝い船

(セリフ)
「どうかお二人 力を合わせ立
派な家庭を築き末永くお幸せに」

いまは名もない 舟だけど
いつかなります 宝船
今日はめでたい 希望の船出
夢の帆柱 天までとどけ
舵を明日(あした)へ 祝い船


24.瞼の母

作詞:横井弘
作曲:遠藤実

親はあっても 顔さえ知らず
表通りを はずれ笠
どこに
どこにいるのか おっかさん おっかさん
瞼あわせて 今日も呼ぶ

「おかみさんそれじゃあ番場宿の忠太郎と云う
者に憶えはねえとおっしゃるんでござんすか」

永い歳月(としつき) 別れて住めば
遠くなるのか 気持まで
俺は
俺は馬鹿だよ おっかさん おっかさん
なまじ逢わなきゃ 泣くまいに

「考えてみりゃあ俺も馬鹿よ
骨をおって夢を消してしまった…」

西へ飛ぼうが 東へ行こうが
とめてくれるな 花すすき
これで
これでいいのさ おっかさん おっかさん
瞼とじれば また逢える


25.我が人生はなみだ川

作詞:杉紀彦
作曲:吉田矢健治

(セリフ)
「生きるすべてを、語りつづけ、
うたいつづける事に、ささげて来た私。
その思い出を拾いあつめてみるならば、
人生をぬって流れる、なみだの川になる
ようでございます。」

照る日曇る日 吹雪の日
芸がいのちと 仕込まれて
泪うかべる ひまもなく
おさな芸人 流れ旅
幾年月(いくとしつき)を幾年月を
あゝ……流れ旅

むしろがこいの かけ小屋が
娘浪曲 晴れ舞台
たった一つの 衣裳着て
十九 二十(はたち)を 汗まみれ
恋すら忘れ恋すら忘れ
あゝ……汗まみれ

(セリフ)
「ひもじさと貧しさを道づれに、ひ
たすら修業の歳月をすごした私には、いつ
の間にか、ふれあうお方一人一人の、つらいく
るしい人生が分かって参りました。人の泪
は私の泪……、共に泣き共に応(こた)えて筒井
筒、私に命ある限り、歌い続けて参ります。」

生きるつらさを わけあえば
他人(ひと)の泪も わが泪
つきぬこの世の 哀しみを
拾いあつめる なみだ川
我が人生は我が人生は
あゝ……なみだ川


26.岸壁の母

作詞:藤田まさと
作曲:平川浪竜

母は来ました 今日も来た
この岸壁に 今日も来た
とどかぬ願いと 知りながら
もしやもしやに もしやもしやに
ひかされて

(セリフ)
「又引き揚げ船が帰って来たのに、今度もあの子は帰らない。
この岸壁で待っているわしの姿が見えんのか……。
港の名前は舞鶴なのに何故飛んで来てはくれぬのじゃ……
帰れないなら大きな声で……。」

呼んで下さい おがみます
ああ おっ母さんよく来たと
海山千里と言うけれど
なんで遠かろ なんで遠かろ
母と子に

(セリフ)
「あの子は今頃どうしているでしょう。
雪と風のシベリアは寒かろう……
つらかっただろうと命の限り抱きしめて……
温めてやりたい……。」

悲願十年 この祈り
神様だけが 知っている
流れる雲より 風よりも
つらいさだめの つらいさだめの
杖ひとつ

(セリフ)
「ああ風よ、心あらば伝えてよ。
愛し子待ちて今日も又、
怒涛砕くる岸壁に立つ母の姿を……」