股旅~雪の渡り鳥~

五木ひろし 股旅~雪の渡り鳥~歌詞
1.雪の渡り鳥

作詞:清水みのる
作曲:陸奥明

合羽からげて 三度笠
どこを塒(ねぐら)の 渡り鳥
愚痴じゃなけれど この俺にゃ
帰る瀬もない
伊豆の下田の 灯が恋し

払い除けても 降りかゝる
何を恨みの 雪しぐれ
俺も鯉名の 銀平さ
抜くか長脇差
ぬけば白刃に 血の吹雪


2.おしどり道中

作詞:藤田まさと
作曲:陸奥明

惚れてなるかと 浅間のからす
気障なせりふを 二つ三つ
情け知らずと 嗤(わら)わば嗤え
これがやくざの 泣きどころ

泣けと云うなら 泣いても見せる
死ねと云うなら 死にもする
野暮な野郎で ム(ござ)んすけれど
惚れた気持にゃ 嘘はない

馴れた草鞋(わらじ)も 日昏れにゃゆるむ
ましておしどり 二人旅
聞いてくれるな 草鞋のことは
どこで解こうと 結ぼうと


3.裏通り

作詞:藤田まさと
作曲:遠藤実

表通りを お陽さまに
はじき出されて 裏通り
日陰ぐらしの この俺に
花の咲く日は
花の咲く日は まだ遠い

枯葉小僧じゃ ないけれど
風が今夜も 見にしみる
春を逃がして 追いかけて
ばかな男で ばかな男で
ございます

好きというなら ついて来い
俺もいのちを くれてやる
負けずぎらいの 落い穴
お前だけには
お前だけには つい負けた


4.潮来笠

作詞:佐伯孝夫
作曲:吉田正

潮来の伊太郎 ちょっと見なれば
薄情そうな 渡り鳥
それでいいのさ あの移り気な
風が吹くまま 西東
なのにヨー なぜに眼に浮く 潮来笠

田笠の紅緒が ちらつくようじゃ
振り分け荷物 重かろに
わけはきくなと 笑ってみせる
粋な単衣(ひとえ)の 腕まくり
なのにヨー 後髪引く 潮来笠

旅空夜空で いまさら知った
女の胸の 底の底
ここは関宿 大利根川へ
人にかくして 流す花
だってヨー あの娘川下 潮来笠


5.一本刀土俵入り

作詞:藤田まさと
作曲:春川一夫

千両万両 積んだとて
銭じゃ買えない 人ごころ
受けた情の 数々に
上州子鴉 泣いて居ります
泣いて居ります この通り

「わしゃァ姐さんのようないい人に、
めぐり逢ったのは初めてだ、はい、はい、きっと成ります。
横綱になった姿を姐さんに見て貰います。
そしてなァ、わしゃ死んだおっ母さんの御墓の前で
立派な土俵入りがしたい。」

野暮な浮世の うら表
教えこまれて 一昔
夢でござんす なにもかも
角力修業も 今じゃ日蔭の
今じゃ日蔭の 三度笠

「角力にゃなれず、やくざになって尋ねて見りゃこの始末。
さァ、姐さん、この金持って、早くお行きなせえまし。
飛ぶには今が汐時だ。後はあっしが引受けました。
さァ、早く早く行きなさいまし。ああ、もし、お蔦さん、
親子三人、何時までも仲良く御暮しなさんせ。
十年前に櫛、笄、巾着ぐるみ、意見を貰った姐はんへ、
せめて見て貰う駒形のしがねぇ姿の横綱の土俵入りでござんす。」

御恩返しの 真似ごとは
取手宿場の 仁義沙汰
御覧下され お蔦さん
せめて茂兵衛の 花の手数入り
花の手数入り 土俵入り


6.時雨の半次郎

作詞:藤田まさと
作曲:猪俣公章

人の浮世を 二つに裂けば
野暮な掟の岐れ路
義理に生きるか 情けに死ぬか
無駄にゃしないさ 命は一つ
俺は時雨の半次郎

越える信濃路 飛ぶ上州路
飛べば近づく 江戸の空
どこに在すか 瞼のお人
遇えば捨てます 一本刀
俺は時雨の半次郎

人の情けに 掴まりながら
泥が洗えぬ 旅がらす
咲いた春から 萎んだ秋へ
花もいつしか 時雨に消えた
俺は時雨の半次郎


7.大利根月夜

作詞:藤田まさと
作曲:長津義司

あれをご覧と 指さす方に
利根の流れを ながれ月
昔笑うて 眺めた月も
今日は 今日は涙の 顔で見る

愚痴じゃなけれど 世が世であれば
殿のまねきの 月見酒
男平手と もてはやされて
今じゃ 今じゃ浮世を 三度笠

もとをただせば 侍育ち
腕は自慢の 千葉仕込み
何が不足で 大利根ぐらし
故郷じゃ 故郷じゃ妹が 待つものを


8.箱根八里の半次郎

作詞:松井由利夫
作曲:水森英夫

廻し合羽も 三年がらす
意地の縞目(しまめ)も ほつれがち
夕陽背にして 薄(すすき)を噛めば
湯の香しみじみ 里ごころ
やだねったら やだね
やだねったら やだね
箱根八里の半次郎

寄木細工よ 色恋沙汰は
つぼを外せば くいちがう
宿場むすめと 一本刀
情けからめば 錆(さび)がつく
やだねったら やだね
やだねったら やだね
まして半端な 三度笠

杉の木立を 三尺よけて
生まれ在所を しのび笠
おっ母(かあ)すまねぇ 顔さえ出せぬ
積る不孝は 倍返し
やだねったら やだね
やだねったら やだね
箱根八里の 半次郎


9.道連れ

作詞:藤田まさと
作曲:遠藤実

三度笠より ドスよりも
情け一つが 欲しかった
赤いトンボが スイスイと
秋の山坂 飛ぶころは
俺はお前の 夢ばかり

昨日筑波の 風に泣き
今日は大利根 雨に泣く
身から出たとは 言いながら
今じゃ錆付く やくざ性
連れも欲しいよ 日の昏(く)れは

生きて来たのが ひとりなら
死んで行くのも ただひとり
どうせお前も ひとり旅
恋の塒(ねぐら)を 貸してやる
俺の腕(かいな)の 中で死ね


10.中山七里

作詞:佐伯孝夫
作曲:吉田正

中山七里の お地蔵さんに
あげる野花も かなしい供養
仇は討ったぜ 成仏(じょうぶつ)しなと
合わす両手に 他国の風が
今日も 今日も
今日も冷たい 急ぎ旅

似ている似てるぜ 助けた女
おしまおまえに ほつれ毛までも
看病一つに つい身がはいる
抱いて女房と 呼びたい宿で
きけば きけば
きけば亭主を たずね旅

長脇差(どす)一本 草鞋(わらじ)をはいて
土足裾(すそ)どり おいとましやす
好いて好かれて 手に手を引いて
木曽は桟(かけはし) 仲よく渡れ
これが これが
これが政吉 置土産


11.旅鴉

作詞:藤田まさと
作曲:遠藤実

百里千里を 歩いても
歩くだけでは 能がない
ましてやくざな 仁義沙汰
広い世間を せまくして
どこに男の どこに男の
明日がある

はなればなれに 散る雲に
きいて答えが 出るものか
一つしかない 命なら
一つしかない ふるさとの
せめて畳の せめて畳の
上で死ぬ

意地と情けは 垣根ごし
それが道理と 知りながら
知った道理の 裏をゆく
野暮な野郎の 意地っ張り
今日も草鞋の 今日も草鞋の
紐が泣く


12.伊豆の佐太郎

作詞:西條八十
作曲:上原げんと

故郷見たさに 戻ってくれば
春の伊豆路は 月おぼろ
墨絵ぼかしの 天城を越えて
どこへ帰るか どこへ帰るか
夫婦雁

瞼とじれば 堅気になれと
泣いてすがった 洗髪
幼馴染も あの黒潮も
一度ながれりゃ 一度ながれりゃ
帰りゃせぬ

逢って行こうか 逢わずに行こうか
伊豆の佐太郎 忍び笠
どうせ明日は またながれ旅
はいた草鞋に はいた草鞋に
散る椿


13.母恋鴉

作詞:藤田まさと
作曲:猪俣公章

水戸を離れりゃ 松戸へ十里
街道がらすが 一ト声泣いた
母はどこかと 一ト声泣いた
母はどこかと どこかとョー

間の宿かよ 江戸川渡し
宿場がらすが 泣き泣き越えた
母は無事かと 泣き泣き越えた
母は無事かと 無事かとョー

九十六間 すみだの橋を
わたるからすが 嬉しゅて泣いた
母に逢えると 嬉しゅて泣いた
母に逢えると 逢えるとョー


14.伊太郎旅唄

作詞:佐伯孝夫
作曲:吉田正

筑波山さへ男体女体
伊太郎かなしや一本どっこ
利根の河原じゃすゝきも泣いた
ふいとやくざに
ふいとやくざにヨー 誰がした

すすき葉末に光るは露か
やさしい潮来のあのお月さん
逢わず三年 こらえて利根も
じっと流れる
じっと流れるヨー 七十里

斬られ切傷 おいらはいいが
荒れてはくれるな故郷の土よ
きかぬ気性といっても女
雨はつらかろ
雨はつらかろヨー 花あやめ


15.関の弥太っぺ

作詞:藤田まさと
作曲:五木ひろし

春に不向きな 水葬いが
甲州街道に また一つ
死んだ佛の 残した荷物
じっと見つめて 弥太っぺやくざ
顔で泣かずに 腹で泣く

北へ転がり 東へ流れ
旅の噂を 追いかけて
来れば渡世の 掟を外に
ケチな野郎の 人情騒ぎ
雨よ宿場の 先で降れ

数え八年 丸七年目
可愛い蕾が 花になる
嬉しうござんす この想い出を
関の弥太っぺ 大事にします
胸にしまって あの世まで


16.赤城の子守唄

作詞:佐藤惣之助
作曲:竹岡信幸

泣くなよしよし ねんねしな
山の鴉が啼いたとて
泣いちゃいけないねんねしな
泣けば鴉が又さわぐ

坊や男児だねんねしな
親がないとて泣くものか
お月様さえたゞひとり
泣かずにいるからねんねしな

にっこり笑ってねんねしな
山の土産に何をやろ
どうせやくざな犬張子
貰ってやるからねんねしな


17.鯉名の銀平

作詞:藤田まさと
作曲:五木ひろし

雪の伊豆路を 下田へ三里
なにを急ぎの 三度笠
脇差で斬れない 情けの糸に
がんじがらめの はぐれ鳥
あれは 鯉名の銀平の
後姿だよう

義理の掟と 男のいのち
はかりゃ重さは 九分一分
どうせ一天 地六の運命
死ぬを覚悟の 渡り鳥
あれは 鯉名の銀平の
破れ合羽だよう

死んだ心算が また逆戻り
廻り灯籠の 影芝居
雪は消えても 晴れ間は見えぬ
仲間外れの片羽鳥
あれは 鯉名の銀平の
男涙だよう


18.瞼の母

作詞:高月ことば
作曲:村沢良介

軒下三寸 借りうけまして
申しあげます おっ母さん
たった一言 忠太郎と
呼んでくだせぇ 呼んでくだせぇ
たのみやす

「おかみさん、いま何とか言いなすったね
親子の名のりがしたかったら
堅気の姿で尋ねて来いと言いなすったが
笑わせちゃいけねぇぜ 親にはぐれた小雀が
ぐれたを叱るは 無理な話しよ
愚痴じゃねぇ 未練じゃねぇ
おかみさん 俺の言うことを よく聞きなせぇ
尋ね 尋ねた母親に
倅と呼んで もらえぬような
こんなやくざに 誰がしたんでぇ」

世間の噂が 気になるならば
こんなやくざを なぜ生んだ
つれのうござんす おっ母さん
月も雲間で 月も雲間で
もらい泣き

「何を言ってやんでぇ
何が今更 忠太郎だ 何が倅でぇ
俺にゃおっ母は、いねぇんでぇ
おっ母さんは、俺の心の底に居るんだ
上と下との瞼を合わせりゃ
逢わねぇ昔のやさしい
おっ母の面影が浮かんでくらぁ
逢いたくなったら
逢いたくなったら俺ァ 瞼をつむるんだ」

逢わなきゃよかった 泣かずにすんだ
これが浮世というものか
水熊横丁は 遠灯り
縞の合羽に 縞の合羽に 雪が散る

おっ母さん…